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名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)755号 判決 1966年2月24日

控訴人 北勢砂利興業株式会社破産管財人 森田志馬太郎

被控訴人 有限会社協和石油

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および書証の認否は、左記の外原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

仮りに、本件各手形振出以前に破産者北勢砂利興業株式会社(以下破産会社と称する)の取締役会において、右破産会社の代表取締役と訴外稲葉興業株式会社(以下訴外会社と称する)の代表取締役とを兼任する訴外和波久衛が右破産会社を代表して右訴外会社に宛て約束手形を振出すことにつき、一般的な承認を与えた事実ありとするも、元来商法第二六五条による取締役会の承認は個々的になされることを要し、包括的になすも承認の効果は生じない(松田、会社法概論昭和二七年版二〇三頁参照)。

(被控訴代理人の陳述)

商法第二六五条の取締役会の承認は定型的もしくは類型的な行為一般についてはこれを概括的、一般的になしてもよいとするのが通説判例である。

本件各手形はいずれも破産会社の訴外会社に対する砂利代金の支払、もしくは、訴外会社の取引先に対する代金の支払の資金援助という原因関係上も特定せる基本的取決めに従い、かつ、破産会社が訴外会社に対して振出す手形行為という定型的な行為になされた承認であるから、商法第二六五条の取締役会の承認としての効力を有している。いまや商法第二六五条がそのまま無条件に手形行為に適用されることについては(ことに本件のごとく第三者が所持人となつているとき)、大いなる反省がなされ制限的解釈が至当とされている折柄、控訴人主張のごとく承認をせまく解釈する態度は決して許されない。

理由

当裁判所の判断による被控訴人の請求は原審認容の限度において正当であつて認容すべく、その余は失当として、棄却すべきものと考える。その理由は、左記に付加するほか、原判決の説示するとおりであるから、原判決の理由記載を引用する。

控訴代理人は、商法第二六五条の取締役会の承認は個々の取引について与えられることを要し、包括的一般的たることをえない旨主張しているから、この点について当裁判所の見解を明らかにする。

商法第二六五条の取締役会の承認は個々の取引について与えられることを要し包括的たることを得ないというのは、承認が各場合につきその取引により会社の利益の害されるおそれなきや否やを考慮して与えられるのでなければ、会社の利益に対する危険防止のために設けられた商法第二六五条の立法の趣旨は没却される虞があるからである。してみると、一般的、包括的な承認であつても右の立法目的に反しない場合はこれを有効と解してもなんら差支えないはずである。本件についてこれをみると、原審認定のごとく、(1) 訴外会社は砂利の採取、販売等を営業の目的とするもので、昭和三八年一二月一日設立されたが、破産会社のいわゆる子会社ともいうべきものであつて、設立に際して発行された株式数の九〇パーセント以上が破産会社によつて引受けられ、かつ、破産会社の代表取締役をしていた訴外和波久衛が破産会社の取締役会の意向を受けて新設の訴外会社の代表取締役にも就任していた。(2) 訴外会社は、自己の採取した砂利等を破産会社をふくむ若干の需要家に販売供給するとともに、破産会社を除くその余の需要家に対して販売した砂利等の代金を取り立てるべき権限を破産会社に授与し、一方破産会社はかかる授権に基づいて取立てた販売代金を精算し、さらに破産会社がみずから買受けた砂利代金を支払うために、あるいは、訴外会社のために金融上の援助を与えるために、訴外会社に対し手形を振出すという基本的取決めがなされていた事実が認められる。このような事実関係のもとにおいて、破産会社の取締役会が本件各手形振出につき与えた一般的承認は、特定の取引関係について与えられた承認というべきであつて、破産会社の利益に対し危険を及ぼすおそれがあるとは到底考えられないから、これを有効と解するのが相当である。

以上の次第ゆえ、当審の判断と同一結論に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 成田薫 神谷敏夫 辻下文雄)

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